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仙台地方裁判所 昭和34年(ワ)300号 判決 1961年12月26日

原告 宮城コレダ販売株式会社

被告 角田商事株式会社

主文

被告は原告に対し別紙目録記載の第二種原動機付自転車四台を引渡せ。

右引渡の執行不能のときは、被告は原告に対し別紙目録記載の当該車両の価格に相当する金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金一七万円の担保を供するときはその勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し別紙目録記載の第二種原動機付自転車四台を引渡せ。右引渡不能のときは、被告は原告に対し金五〇万五、〇〇〇円およびこれに対する昭和三四年六月二五日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「原告会社はコレダ号軽自動車およびコレダ号原動機付自転車の販売会社であるが、訴外円子親嗣に対し、月賦代金の完済に至るまで所有権を売主である原告会社に留保し使用権のみを買主に許す旨のいわゆる月賦販売契約により、

(一)  昭和三三年一二月四日別紙目録(1) の第二種原動機付自転車一台を、代金一二万円、代金支払方法は毎月二八日限り一〇回払いの約で、

(二)  同月二六日別紙目録(2) (3) の第二種原動機付自転車二台を、各代金一三万円、代金支払方法はいずれも毎月一七日限り一〇回払いの約で、

(三)  昭和三四年一月一六日別紙目録(4) の第二種原動機付自転車一台を代金一二万五、〇〇〇円、代金支払方法は毎月二三日限り一〇回払いの約で、

それぞれ売渡したところ、右訴外人は右各代金を完済しない。

ところが被告会社は右原動機付自転車四台を現に占有している。

よつて原告会社は被告会社に対し、その所有権に基き右原動機付自転車四台の引渡を求めると共に、もし右引渡義務が被告会社の責に帰すべき事由によつて履行不能となつたときは、右自転車四台の価格相当額の損害賠償金およびこれに対し本件訴状送達の日の翌日である昭和三四年六月二五日から支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。」と述べ、

被告の抗弁に対する答弁として、「訴外円子親嗣が被告主張のとおり、被告会社に対し本件四台の原動機付自転車を売渡担保に供したことは認めるが、被告会社において右訴外人の占有を信ずるにつき過失がなかつたとの点は否認する。

訴外円子は本件原動機付自転車四台以前にも原告会社より買受けた軽自動車および原動機付自転車を被告会社に対し売渡担保に供したことがあり、被告会社は金融業者として同一人が数回に亘り同種類の物件を担保に供する場合には、その提供者、物件の入手先につき所要の調査をなし提供者の権原の有無を確かめるべきであるのにこれを怠つた過失がある。即ち、被告は本件取引は総て訴外円子の呈示した原動機付自転車標識交付証明書の所有者欄の記載によりその権利者を確認したから取引業者としての注意義務は十分果している旨主張するが、原動機付自転車類の割賦販売においてはその所有権を売主に留保するにも拘らず、簡便な取引の要請と税法上所有名義人が納税義務者とされているところから関係官庁への届出の関係においては買主を所有名義人とすることが慣行として行われているのであつて、金融業者としては右標識交付証明書を調査することのみをもつては充分取引上の注意を払つたものとはいい難く、少くとも当該物件の売主を調査してその所有権の所在を明らかならしむべきである。ことに本件においては被告会社代表者は訴外円子から本件取引に際し本件各原動機付自転車の買入先が原告会社であることを聞き知つていたにも拘らず、同訴外人から取引上都合が悪いから原告会社には連絡しないでくれと依頼されてこれを諒承し、原告会社に本件取引を秘匿していたのであるが、業者としてはかかる場合こそ、ことさら注意し原告会社に連絡してその真偽をただすべきであつた。しかるに被告会社はかかる措置に出ることなく漫然と訴外円子と取引したのであるから、業者としてその取引上の注意義務を甚だしく欠いたものというべく、被告会社が訴外円子を権利者と信じたのは右過失に基くものであるから、被告会社が本件原動機付自転車四台の所有権を取得すべき理由はない。」と述べた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁ならびに抗弁として、

「請求原因事実中、被告会社が原告主張の原動機付自転車四台を現に占有していることは認めるが、その他の事実は知らない。

仮に原告主張のとおりの事実関係があるとしても被告会社は訴外円子親嗣より(1) 昭和三三年一二月五日、同人に貸付けた金六万五、〇〇〇円の担保として請求原因(一)の原動機付自転車を、(2) 同月二七日、同人に貸付けた金一三万円の担保として請求原因(二)の原動機付自転車二台を、(3) 翌三四年一月一七日、同人に貸付けた金六万五、〇〇〇円の担保として請求原因(三)の原動機付自転車一台を、それぞれ譲受けてその所有権を取得し、その占有をしているのであり、右各取引の際訴外円子はこれらの原動機付自転車につき同人名義の標識交付証明書を呈示したため被告会社においては同人の所有物であると信じてその取引をしたのである。従つて同訴外人の占有を信ずるにつき被告会社には何らの過失がなかつたから、被告会社は即時取得により本件各原動機付自転車の所有権を取得したものである。」と述べた。<証拠省略>

理由

一、いずれも成立に争のない乙第二号証の一、二、乙第三号証の一、二、乙第四号証の一、二、乙第六号証の一、二(以上いずれも原動機付自転車標識交付証明書)、乙第九号証(古物台帳写――原本の存在についても争がない――)、甲第一〇号証の二(売買契約書)、甲第三号証(橋本真明の司法警察職員に対する供述調書)、甲第六号証(円子親嗣の司法警察職員に対する供述調書)および証人橋本真明の証言を綜合すると、原告会社はコレダ号軽自動車およびコレダ号原動機付自転車の販売会社であり、訴外円子親嗣に対し、分割払代金の完済に至るまで所有権を売主である原告会社に留保し、使用権のみを買主たる円子親嗣に許す旨のいわゆる月賦販売契約により、昭和三三年一二月四日、第二種原動機付自転車一台(別紙目録(1) に該当する。原告の主張によれば、標識番号は三六三四、機関番号ST五四八〇五とあるが、上記各証拠に成立に争のない乙第一号証の一、二を綜合して判断すれば、これは標識番号は三六七七、機関番号ST五四三〇五の誤記と認められる――以下本件自転車(1) と称する――)を、買受名義人を合資会社東北地科学研究社として代金一二万円、代金支払方法は一〇箇月均等払の約で、同月二六日第二種原動機付自転車二台(別紙目録(2) (3) に該当する――以下本件自転車(2) (3) と称する。――)を、買受名義人を富士理研株式会社として、各代金一三万円、代金支払方法はいずれも一〇箇月均等払の約で、昭和三四年一月一六日第二種原動機付自転車一台(別紙目録(4) に該当する。――以下本件自転車(4) と称する。――)を、買受名義人を合資会社東北地科学研究社として、代金一二万五、〇〇〇円代金支払方法は一〇箇月均等払の約で、それぞれ売渡し同訴外人は右四台の自転車の引渡を受けたこと、および右四台の自転車の各分割払代金については訴外円子はいずれもその支払を完了していないことを認めることができる。従つて前記所有権留保の特約に基き本件(1) ないし(4) の四台の自転車の所有権は依然原告会社にあるものと認められる。

二、ところで被告会社が訴外円子親嗣から昭和三三年一二月五日、同人に貸付けた金六万五、〇〇〇円の担保として本件(1) の自転車の同月二七日同人に貸付けた金一三万円の担保として本件(2) (3) の二台の自転車の、翌三四年一月一七日同人に貸付けた金六万五、〇〇〇円の担保として本件(4) の自転車の各譲渡を受け、現に右四台の自転車を占有していることは当事者間に争がない。

三、そこで以下に被告の即時取得の主張について判断する。

前掲甲第六号証、乙第九号証、いずれも成立に争のない甲第一二ないし第一四号証(売渡契約書)および被告会社代表者本人尋問の結果によれば、本件(1) ないし(4) の自転車はいずれも上記各期日に各借入金に対する担保とする趣旨で、一箇月後に各借入金とこれに対する日歩三〇銭の割合による利息を附加した額を代金として買戻を認める旨特約した買戻約款付の売買契約により、訴外円子親嗣から前記各買受人名義をもつて被告会社に売渡され、上記のとおり被告会社においてこれを占有しているものであることを認めることができる。そしてその際右各自転車は原告会社が所有権を留保して売渡したものであること即ち円子にその処分権がないことを被告会社が知つていたと認むべき証拠はないから、その占有は平穏公然に且つ善意ではじめられたものというべきである。

そこで右事情を知らなかつたことにつき被告会社に過失がなかつたか否かを検討する。

前掲甲第三、第六号証、乙第九号証、各成立に争のない甲第五、第七号証、第一〇号証の一、第一一号証を綜合すると、被告会社は本件四台の原動機付自転車を円子親嗣から買受けるに先立ち、同人が右四台の分と同様原告会社又は訴外赤間商会から代金月賦払の約定で買受けその代金を完済していない別の原動機付自転車三台を、同人から昭和三三年一〇月二七日、一一月二七日、二九日の三回にそれぞれ本件四台の分と同様な約定で買受けていること、即ち被告会社と円子との間には三箇月に充たない期間内に六回に七台の原動機付自転車の取引が行われていて、本件の四台は右のうち後半三回の取引にかゝるものであることが明らかである。被告会社代表者本人尋問の結果によると、これら七台の原動機付自転車の取引にあたつた同本人が円子の処分権の有無に関して払つた注意は、円子自身の言分を聞く以外、その一台一台につき原動機付自転車標識交付証明書によつて合資会社東北地科学研究社又は富士理研株式会社が所有者と表示されていることをたしかめ、その看板のかゝつている事務所に行つて各代表者と称する円子の父および叔父に会つてそれが夫々の会社の所有物であり円子親嗣にその処分を委ねているとい言明を得、これら原動機付自転車の所有名義を変更するに必要な各会社代表者名義の印章の押捺された書類一切を交付されたことに尽きること、即ち標識交付証明書に表示された所有名義人についてそれがたしかにその所有であるかどうか及び処分を承認しているかどうかを訊したに過ぎないことが明らかで、そのことは要するに交付証明書の各義人自身が現物を持参した場合であれば特に調査するまでもないことを偶々そうでなかつたために調べたというに過ぎず、交付証明書に表示された所有名義人が果して当人の言うとおり真正な権利者であるかどうかということには関係のない事項であるといわなければならない。従つて問題は専ら右証明書の所有者欄の表示がどの程度の信頼性を有するものであるかにかゝるものというべきところ、この点につき同本人は、交付証明書に所有者として表示されている者はその証明を得るための手続がつねに前者の承諾印を要することとなつている関係上当然正当な所有者とみなされて然るべきものであり、また所有権留保の売買があつた場合は所有者欄を売主買主の連名とする建前になつているから、単独所有名義になつている以上そのような場合でないと考えて然るべきであるという趣旨の供述をしている。しかし権利の得喪変更を第三者に対抗する要件である道路運送車輛法上の自動車の登録の場合とは異り、市町村がその区域内において運行の用に供せられる原動機付自転車に課税する必要上住民にその所在の届出を強制し所有者として届出られた者に課税するとともにその者に対し届出を受け標識を交付したことを証明するにすぎない原動機付自転車標識証明書の所有者欄の表示はその性質上所有権の所在そのものを公証するものでないことは明らかというべきであつて、実際にも関係者としては税負担者が何人であるかを主眼として届出をすれば足りる関係上、販売業者が所有権を留保して月賦販売をした場合でも直ちに買主を所有者として届けられている例が多いことは成立に争のない甲第一五・一六号証の記載ならびに証人平塚力雄の証言からこれを窺うに難くない。従つてその表示は通常の事態においては一応所有権の所在を示す手がかりであるといえるにしてもそれ自体自動車登録と同様な推定力ないし信頼性をもつものではないといわなければならない。

ところが本件においては前認定のとおり四台の原動機付自転車の取引の直前次々に同一人を相手とする三台の取引が行われていることは前認定のとおりであつて、しかもこれら七台がいずれも新品同様のものであつたことは弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、少くともその四回目から六回目にあたる本件四台の取引当時その取引は被告会社にとつても異例なものであつたといわざるを得ない。そして前顕平塚証人の証言によると原動機付自転車は所有権留保約款付で月賦販売される例が極めて多く、従つて新車の所持者の中には所有権を販売業者に留保されているものが相当存することが窺われ、一方前顕被告会社代表者本人の供述によると、被告会社は質屋営業および古物営業の免許により動産金融を主たる業務とするもので実際上その代表者加川直二郎の個人営業に等しい経営状態にあり、しかも原動機付自転車類を担保にとつて金融を行うことはその常業に属することが認められるから、代表者加川は当然右事情を熟知していたと推定すべきであつて、前記のような異例の取引の申込に対しては、申込者が現金を調達するため月賦販売制度を悪用し販売業者から所有権を留保して引渡された新車をそのまゝ入質するのではないかという点に注意を払い、これを適当な方法で調査することがまさにその業務上の注意義務であるといわなければならない。(そのことは申込者がたとえば新車の小売業者であつて資金調達のため商品を担保に供しようとするような場合であつてすら事情によつては卸売業者に対する関係で妥当することがあろう。)

ところが同本人の供述によると、円子は何ら新車の販売に関係しているわけでもなく、加川自身一応はこの点に不審をいだきながら、円子から自分の会社は自動車のタイヤに使用する特殊薬液を原告会社に売り、対価としてこれら原動機付自転車を給付されたという程度の説明を受けたのみでたやすくその言を信じ、取引の信用上原告会社に照会することはやめて貰いたい旨の懇請に応じ何らそれ以上の調査をしなかつたというのであつて、円子のいう会社が果して特殊薬液を取扱つているかどうか、これを原告会社に納入したことがあるかどうかというような点は誰の信用をおとさずとも原告会社ないし適当な第三者に対する簡単な電話照会によつてたやすくその真偽をたしかめ得た筈と考えられ、ひいては円子に本件四台の原動機付自転車の処分権がないことが判明した筈といえるから、単に前示のように信頼度の必ずしも高くない原動機付自転車標識交付証明書の所有者の表示や円子の虚言をそのまま信じて右のような調査を怠つたことは被告会社の過失といわざるを得ない。従つて被告会社につき民法一九二条による所有権の即時取得を認めることはできない。

よつて被告に対し所有権に基き本件(1) ないし(4) の原動機付自転車の引渡を求める原告の請求は理由がある。

四、そこでつぎに原告の代償請求につき判断する。本件(1) ないし(4) の自転車の本件口頭弁論終結当時における時価を考えるに、右各自転車について前記売買契約当時の価格がそれぞれ金一二万円、一三万円、一三万円、一二万五、〇〇〇円であつたことは前記認定のとおりであり、その保存の状態ないし時価の変動について何等の主張立証もなされていない本件においては、口頭弁論終結当時の価格も前記売買契約当時の価格によつてこれを認定せざるを得ない。従つて本件(1) ないし(4) の自転車の引渡執行不能の場合は、その履行に代る損害賠償として被告は原告に対し、右各自転車の価格相当額を支払うべき義務がある。

なお原告は更に右金員に対し本件訴状送達の日の翌日(昭和三四年六月二五日)から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めているが、遅延損害金は右金員の履行期到来後原告の催告により遅滞に付せられた後でなければこれを求めることができないものであるから、この点に関する原告の請求は失当というべきである。

五、よつて以上判断したとおり、原告の本訴請求は主文第一、二項の限度において正当であるからこれを認容することとし、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九二条を、仮執行の宣言については同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 飯沢源助 蓑田速夫 落合威)

車輛目録

(1)  コレダ号第二種原動機付自転車

排気量 一二五CC 標識番号 は第三六七七号

機関番号 ST五四三〇五 価格一二万円

(2)  右同

排気量 一二五CC 標識番号 は第三七六六号

機関番号 ST四九五一一 価格一三万円

(3)  右同

排気量 一二五CC 標識番号 は第三七六七号

機関番号 ST四九七六七 価格一三万円

(4)  右同

排気量 一二五CC 標識番号 は第三八六九号

機関番号 ST五五四五六 価格一二万五、〇〇〇円

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